日常業務を動かすエンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)システムは、単にビジネスプロセスの強力なツールであるだけではなく、データを大量に消費し、強力なデータを作成するツールでもあります。 

ERPは重要な財務データ、サプライチェーンデータ、人事データ、調達データを基に、ビジネスの中核をなすトランザクションを正確に実行します。しかし、当然ながら、ERPシステムは新たな給与レコード、販売実績、請求ステータスなど、多くのデータの生成も行います。このデータの重要な特性に、1つの真実が隠されています。それは、SAPなどの高度なERPシステムを利用しているあらゆる企業にとって、データの整合性と可用性が不可欠であるということです。 

リアルタイムのビジネスアナリティクスとインサイトを求め、組織がますますSAP HANAおよびS/4HANAに移行する中で、堅牢なデータのバックアップとシームレスな復旧戦略の必要性が最重要事項となっています。本ガイドは、データ保護に、SAP HANAデータベースソリューションを使用している場合でも、Microsoft SQL ServerOracleMongoDBなどのサードパーティ製テクノロジーを使用している場合でも、SAPシステムの効果的なバックアップ・リカバリソリューションを通じてSAPシステムのあらゆる潜在能力を保護することに関する有益なインサイトを提供します。

SAPシステムでデータのバックアップが重要な理由

どのようなビジネス環境でも、データはいかなる代償を払ってでも保護しなければならない、極めて重要な資産です。これは、財務、業務、顧客などに関連する大量の機密データを保管するSAP ERPシステムを運用している企業に特に当てはまります。適切なデータバックアップのメカニズムが整っていなければ、企業はハードウェア障害、ソフトウェアのバグ、人為的ミス、またはサイバー攻撃などにより、この非常に貴重な情報を失うリスクにさらされます。

SAP環境のサイバーレジリエンス戦略のバックボーンを形成しているのが、定期的なデータバックアップです。バックアップにより、緊急事態が発生した際に、企業はシステムを最近のある時点まで迅速に復元でき、費用のかかるダウンタイムとデータ損失を最小限に抑えることができます。そのため、事業継続性を維持し、ミッションクリティカルなSAPアプリケーションを保護するうえで、定期的なバックアップルーチンが不可欠です。

SAPデータベースのバックアップ戦略:概要 

SAPデータベースのバックアップに関して、管理者が自由に選べるいくつかのオプションがあります。最適なバックアップ方法は、データベースのサイズ、パフォーマンス要件、目標復旧ポイント(RPO)、および目標復旧時間(RTO)などの要素によって異なります。一般的なSAPのバックアップの種類についていくつか見ていきましょう。

SAPのフルバックアップ:完全なバックアップを通じたセキュリティ

フルバックアップは包括的で、SAPシステム内のすべてのデータを取得します。これには、データ損失が発生した場合に迅速で完全な復旧を行うために不可欠な構成、データベース、アプリケーションファイルが含まれます。このようなバックアップは、復旧プロセスを簡素化するため、特に有益です。管理者は、増分または差分更新を適用する必要なく、システムをバックアップ時点の状態に正確に復元することができます。

ただし、フルバックアップは、時間がかかり、リソースも大量に消費することがあります。したがって、SAPシステムのフルバックアップが必要な場合、ネットワークの使用率が低く、他のミッションクリティカルなワークロードと競合しない時間帯にスケジュールを組むのが最適です。

しかしながら、SAPシステムは大抵、機密の財務データ、顧客データ、および業務データを扱っていることを考えると、フルバックアップによってすべての情報資産が複製可能で安全を確保できます。さらに、フルバックアップは明確なデータリネージと復旧機能を提供しており、GDPR、HIPAAなどの国際的なデータ保護規制の遵守をサポートします。

SAPのフルバックアップ向けベストプラクティス

  • 定期的なスケジューリング:バックアッププロセスでは一貫性が重要 システムパフォーマンスへの影響を最小限に抑え、バックアップ業務の際にデータの整合性を確保するため、フルバックアップをオフピークの時間帯にスケジュールします。

  • ストレージの保護:バックアップを書き換え不可の安全な場所に保存して、物理的な損傷やサイバー脅威から保護します。クラウドストレージを利用すれば、大量のデータに対してスケーラブルで安全かつ費用対効果の高いソリューションとなります。

  • 復旧のテスト:定期的に復旧訓練を実施してバックアップファイルをテストすることは、危機的な状況が発生した場合にそれらのファイルが利用できることを確認するために極めて重要です。このテストは、バックアップ手順を調整して潜在的な復旧時間と障害発生ポイントを最小限に抑えるのにも有効です。

  • サードパーティのソリューション:SAPには、バックアッププロセスを自動化する高度なバックアップ機能が含まれていますが、サードパーティ製ツールは、拡張された自動化オプションを提供し、SAPと連携して最新のバックアップを維持するための労力と許容誤差を低減します。

増分バックアップと差分バックアップ:より効率的な代替手段?

ご使用のネットワーク、ストレージ、コンピューティングリソースをSAP環境のフルバックアップに割く余裕がないという場合も、落胆する必要はありません。他の選択肢があります。 

増分バックアップおよび差分バックアップは、従来のフルバックアップに比べてバックアップ時間を大幅に短縮します。この2つの方法は、変更されたデータのみに焦点を合わせているので、企業はシステムのパフォーマンスに影響を与えることなく、バックアップをより頻繁に実行できます。これは、業務でデータの整合性と可用性が極めて重要であるSAPシステムにとって特に有用です。

しかし、増分バックアップと差分バックの違いは何でしょうか?

  • 差分バックアップでは、最後のフルバックアップ以降に行われたすべての変更をキャプチャします。一般的に増分バックアップよりも多くのストレージ容量を消費し、時間がかかりますが、データを完全に復元するために必要なのは、最後のフルバックアップと直近の差分バックアップの2つのバックアップセットのみであるため、復旧プロセスが合理化されます。

  • 一方、増分バックアップでは、バックアップの種類にかかわらず、最後のバックアップ以降に変更されたデータのみが保存されます。たとえば、最後のバックアップが増分バックアップまたは差分バックアップだった場合、最後のフルバックアップが基準点だった場合と比べて、変更が少なくなる可能性が高くなります。この方法では、差分または増分の間隔内で変更されるデータが少ないため、ストレージ要件が最小限に抑えられます。また、バックアップに必要な時間も短縮されるため、SAPデータベースのバックアッププロセスを最適化しようとしている組織にとって、効率的な選択肢となります。

増分バックアップまたは差分バックアップをSAPデータベースのバックアップ戦略の一環として実施すれば、変更のないデータの不要な重複を回避することで、ストレージのフットプリントが削減されます。これにより、ストレージコストを最適化し、データ管理タスクを簡略化することができます。

システム障害またはデータ損失が発生した場合、最近の増分バックアップまたは差分バックアップがあれば、ダウンタイムを大幅に短縮できます。ミッションクリティカルであることが多いSAPシステムにとって、復旧時間を最小限に抑えることは極めて重要です。増分バックアップでは多層型の復旧アプローチが採用されている一方で、差分バックアップは復元に必要なデータセットを少なくすることで、プロセスを簡略化します。いずれの方法もSAPデータベースを迅速かつ確実に復元するため、企業は業務をすばやく再開することができます。

どちらのバックアップ戦略も、本質的により頻繁なバックアップが推奨されるため、結果的にデータの整合性と信頼性が向上します。SAPシステムにとってこれは、より確実にデータを直近の状態に復元し、重要なデータ損失のリスクを最小限に抑えられることを意味します。定期的なバックアップは、データ破損の定期的な確認も促進するため、システムの全体的な健全性の保護をさらに強化できます。

包括的なデータ保護を実現するためには、増分バックアップと差分バックアップの両方を、フルバックアップと組み合わせる必要があります。

SAP HANA:データバックアップにおける特定の課題

SAPの高度なインメモリデータプラットフォームであるSAP HANAの登場によって、企業データの処理と分析をめぐる状況は一変しました。しかし、その登場に伴い、データバックアップに関する新たな一連の課題も生じています。組織はデータの整合性とシステムのレジリエンスを確保するために、その課題にうまく対処しなければなりません。

  • 莫大な量のデータ:SAP HANAの、莫大な量のデータをリアルタイムで処理および保存する機能により、バックアップ対象のデータ量も大幅に増加します。従来のバックアップソリューションは大抵の場合、これほど大量のデータセットを効率的に処理できる機能を備えていないため、バックアップ時間の増加とインフラに対する需要の高まりにつながります。 

  • インメモリデータベースの複雑さ:SAP HANAは、インメモリデータベースであるため、従来のディスクベースのデータベースとは異なる方法で動作します。データをメモリ内で保持し、停電やシステムクラッシュから保護できるストレージ媒体と共有しなければならないため、独自の課題が生じます。データベースがトランザクションを活発に処理している間に、バックアッププロセス中に一貫したデータの状態を維持させようとすると、バックアップ作業がさらに複雑になることがあります。

  • 高可用性の期待:SAP HANAは、高い可用性を必要とするビジネスクリティカルなアプリケーションを動かしています。バックアップのためのダウンタイムを含め、どのようなダウンタイムでも、業務に大幅な影響を与えかねません。そのため、中断がなく、継続的なデータ処理と並行してシームレスに運用できるバックアップソリューションが必要になります。 

  • パフォーマンスに関する考慮事項:SAP HANAデータベースのパフォーマンスは、バックアッププロセス中に妥協できない重要なバリュープロポジションです。そのため、バックアップは迅速かつ効率的に連携していなければなりません。

  • 包括的なデータ保護:SAP HANAの場合、データ保護は単にデータベースを保護することにとどまりません。ソフトウェア、構成、ログを含むシステム全体のレプリケーションが極めて重要です。 

  • バックアップソリューションの適応:これらの課題を乗り越えるため、組織はSAP HANAの精巧さに見合うように、バックアップソリューションを評価し、頻繁にアップグレードする必要があります。ストレージスナップショット、複数層のストレージ、堅牢なディザスタリカバリ計画などの戦略が、SAP HANA環境でSAPデータベースのバックアップフレームワークをうまく構築するうえで極めて重要な要素となります。

SAP HANAの精巧な特性が、バックアップの複雑な課題をもたらし、再テストと、既存のバックアッププロセスの再設計が多くの場合で必要になります。組織が自社のデータを保護し、高可用性を維持し、SAP HANAへの投資を最大限に活用するためには、これらの課題に適応することが必須です。

SAP HANAでスナップショット技術を使用する

スナップショットというバックアップ技術が、SAP HANA環境の保護を一変させています。ストレージスナップショットを利用することで、組織はシステムのリソースおよびパフォーマンスへの影響を最小限に抑えつつ、特定の時点のデータの状態をキャプチャすることができます。このアプローチは、高速なデータ処理を促進し、迅速で効率的なバックアップソリューションを必要とするインメモリデータベースであるSAP HANAにとって特に有益です。

SAP HANAのデータ保護戦略にストレージスナップショットを組み入れることで、ほぼ即時の迅速なバックアップが可能になり、データベースのパフォーマンスに大きな影響を与えることなく高頻度のバックアップスケジュールを組むことができるようになります。これは、事業継続性を維持し、厳格な目標復旧ポイント(RPO)を達成するために極めて重要です。さらに、スナップショットのメカニズムはストレージ層で機能するため、データ、ログ、構成情報を含むシステム全体の状態を効率的にキャプチャすることができ、必要に応じて総合的な復旧が容易になります。

SAP HANAでスナップショット技術を使用することの重要なメリットの1つが、データフットプリントが削減されることです。スナップショットは最後のスナップショット以降の変更のみが保存されて増分するためです。これにより、ストレージ要件が減り、データ管理のプロセスが合理化されます。

また、スナップショットバックアップは、迅速なディザスタリカバリにもつながります。システム障害またはデータ破損が発生した際に、スナップショットを使用して素早く前の状態に戻すことができ、ダウンタイムや業務の中断を最小限に抑えられます。

backintを使用してSAP HANAでのバックアップを自動化

SAP HANAのバックアップを自動化することは、データの耐久性とシステムのレジリエンスを確保するうえで極めて重要です。バックアッププロセスを強化するために、SAP HANAはbackintインターフェイスを介したサードパーティ製のバックアップツールとの連携をサポートしています。このインターフェイスは、HANAと外部のバックアップソリューションとのシームレスな通信を可能にし、本番システムを妨げることなく、自動化された、一貫性のある効率的なバックアップ作業を促進します。backint対応のツールは、データベースが完全に使用できる状態のままSAP HANAのスナップショット機能を活用してバックアップを開始し、トランザクションの一貫性を確保します。

自動化にbackintを使用することで、バックアップが複数のスレッドにわたって実行される並列化も実現します。このマルチスレッドの機能は、SAP HANAシステムの大量のデータボリュームの特性をより優れた効率で処理して、バックアップを高速化します。バックアップの負荷が複数のスレッドに分散されるため、ボトルネックのリスクが最小限に抑えられ、その結果システムの全体的なパフォーマンスが向上します。

backintインターフェイスを利用するツールでバックアップを自動化することにより、組織は中断のないバックアップを実行できるだけでなく、迅速で最適化されたバックアップ作業のメリットを得られます。このアプローチはバックアップ手順を合理化し、管理の労力を低減するほか、SAP HANA環境の重要な特性にふさわしい、最も高いデータ保護基準への対応を実現します。

S/4HANA:データのバックアップはどのように異なるのか?

SAP S/4HANAは、SAPのHANAインメモリデータベース向けに最適化された次世代のERPソリューションですが、Microsoft SQL Serverなどのサードパーティ製のデータベースソリューションとも併用できます。S/4 HANAは、SAPのERP戦略に関して20年以上ぶりの最大のアップデートであり、従来のERP機能に関わるビジネスプロセスを最新化しようとしている企業にとって、魅力的な選択肢となっています。 

しかし、S/4 HANAで扱えるデータ量と処理能力には、堅牢なバックアップ戦略が求められます。これは、クラウドベースのデプロイメント(SAP RISE経由)でも、サードパーティ製のデータ管理ソリューションを使用するオンプレミスの実装でも同様です。 

重要な1つの要素となるのが、オンプレミスのSAP S/4HANA環境にとって不可欠である、データベースのバックアップです。これには、スケジュールされたデータベースのフルバックアップ(業務への影響を最小限に抑えるため、通常はオフピークの時間帯に実行されます)と、最後のフルバックアップ以降の変更をキャプチャするより頻繁な増分バックアップが含まれます。この戦略により、データベースの復元可能なコピーが常時存在するようになり、データ損失の際に迅速な復元が促進されます。

ファイルシステムのバックアップももう1つの不可欠な要素で、オペレーティングシステム、アプリケーションファイル、構成設定を網羅します。RSYNCやサードパーティ製のバックアップソフトウェアなどのツールはこのプロセスを自動化でき、S/4HANAの実行に必要なシステムファイルと構成の包括的な保護が実現します。

また、ストレージスナップショットを組み入れることで、迅速で効率的なバックアップ方法が提供され、特にオンプレミスのデプロイメントに適しています。この技術は特定の時点でのデータの状態をキャプチャし、迅速なバックアップとパフォーマンスの最小限の中断を可能にします。ストレージスナップショットは既存のバックアップソリューションと連携させて、データ保護を向上することができます。

さらに、レジリエンスを強化するために、S/4HANAのオンプレミスの実装では、外部のバックアップソフトウェアを使用してバックアップを自動化し、効率的に管理できるSAP HANAのbackintインターフェイスを活用する利点を享受できます。このインターフェイスにより、バックアップの一貫性と信頼性が保たれるだけでなく、バックアップがSAP HANAデータベースの独自の機能向けに最適化されます。

SAPデータベースでのリカバリ:迅速なデータ復元のためのステップ

SAPデータベースを使用している企業にとって、重要データをバックアップから効率的に復元できる能力は、データ自体を保護することと同様に基本的なことです。データ損失またはデータ破損の影響を軽減し、事業継続性を確保し、企業データの整合性を保護するうえで、復旧プロセスは最も重要です。SAPデータベースのデータ復元の過程には、4つの極めて重要なステップが含まれます。

  1. 復旧対象のバックアップセットを特定する:最初の段階では、利用可能なバックアップを総合的に確認し、復旧対象として最も適切なセットを選択する必要があります。復旧の理由(データ破損、システム障害など)、データの経過期間、バックアップの完全性などの要素を考慮する必要があります。データ損失を最小限に抑えつつ、復元されたデータの一貫性と使用可能性を保証するバックアップセットを選択することが必要不可欠です。SAP環境において、これは多くの場合、SAP HANA、SAP ASEなど、使用しているSAPデータベース固有のツールおよびログを活用してバックアップコピーの整合性とコンテンツを確認するということです。

  2. 復旧先のターゲットシステムを準備する:復旧プロセスを開始する前に、ターゲットシステムを準備する必要があります。SAPデータベースおよび関連するアプリケーションが正しくシャットダウンされ、ターゲットシステムがバックアップデータを受信するために安定した状態であることを確認することが含まれます。また、この段階で、復旧プロセスを容易にするために必要な構成変更(データベースパラメータの変更やネットワーク構成の変更など)を実施する必要があります。

  3. データベースを再構築するためのリカバリ作業を実行する:ターゲットシステムを適切に準備できたら、次のステップは復旧作業を実行することです。これには、SAPデータベース固有のツールまたは、SAP HANAのbackintインターフェイスに対応するサードパーティ製ソフトウェアを使用することが含まれます。復旧作業は慎重に計画し、実行する必要があります。多くの場合、選択したバックアップセットからデータベース全体を、続いて後続のトランザクションログがある場合はそれを復元します。このステップは、インシデントが発生する前の、最後に一貫性があった状態にデータベースを再構築するために不可欠です。

  4. データ復元が成功したことを検証する:最後の、そしておそらく最も重要なステップが、復元が成功したことを検証することです。このステップでは、復元されたデータベースが完全に機能し、すべてのデータが正確で完全であることを確認する、データの整合性およびシステム機能の徹底的なテストと検証を行います。これには、データベースが業務に必要な基準に達していることを証明するための、一貫性チェック、パフォーマンス評価、およびアプリケーションレベルでのテストが含まれる場合があります。

この4つのステップを効率的に進めることで、データ保護基準に準拠しつつ、データ損失のインシデント発生後にSAPデータベースを迅速に運用可能な状態に復元し、ダウンタイムと関連コストを最小限に抑えることができます。

SAPのディザスタリカバリ:緊急事態のための計画

定期的なバックアップが重要である一方で、企業はさらに一歩先を行き、SAP環境のための包括的なディザスタリカバリ計画を策定する必要があります。サードパーティ製のデータベースに保存されているSAPデータ向けのディザスタリカバリは、企業のレジリエンスに必須の要素であり、さまざまな惨事の中で継続性とデータの整合性を確保します。データセンターの機能停止、サイバー攻撃、自然災害はSAPの本番システムへの多大なリスクとなり、こうした課題に合わせた堅牢なディザスタリカバリ戦略が必要になります。

データセンターの機能停止:機能停止は、本番システムが機能しなくなり、大規模なダウンタイムやデータ損失につながることがあります。効果的なディザスタリカバリでは、オンプレミスとクラウドのいずれでも、冗長性のあるデータセンター業務を確立します。これにより、フェイルオーバーがシームレスになり、中断を最小限に抑えられます。これには、リアルタイムのデータレプリケーションと、プライマリサイトで障害が発生した場合にバックアップデータセンターに迅速に切り替えられるようにすることが含まれます。

サイバー攻撃:ランサムウェア攻撃などのサイバーセキュリティインシデントは、データ破損や完全なデータ損失につながることがあります。こうした脅威から保護するため、サードパーティ製のデータベースに格納されているSAPデータは頻繁にバックアップを行い、オフサイトまたはクラウドで安全に保管する必要があります。書き換え不可のバックアップとポイントインタイムリカバリのオプションは極めて重要です。組織は変更のないデータを攻撃前の状態に復元できます。

自然災害:洪水、地震などの自然災害は、ITインフラに壊滅的な被害を与えかねません。ディザスタリカバリ計画には、1つの災害がすべてのITリソースに影響するリスクを軽減するために、データセンターを地理的に分散すること、また、クラウドのインフラ設置を含める必要があります。定期的なディザスタリカバリ訓練を行うことと、データが複数の場所に複製されるようにすることも、自然災害に備えるために必要不可欠です。

どのようなSAPディザスタリカバリ戦略でも、慎重な計画策定、堅牢なデータバックアップおよびレプリケーション手段の実装、そして復旧手順の継続的なテストとアップデートを行い、進化を続ける脅威から保護する必要があります。

リカバリプロセスの自動化:最小限のダウンタイムで迅速な復旧

SAP環境でのリカバリプロセスの自動化は、迅速な復旧を行い、業務のダウンタイムを最小限に抑えるために最も重要な要素となります。これは、SAPシステムの複雑さとトランザクションの多い特性を考慮すると、極めて重要です。SAPシステムで遅延が発生した場合、重要なビジネスデータの損失、大規模な業務中断、金銭的損失につながりかねません。

レジリエンスを強化してディザスタリカバリを合理化するため、企業は、SAP環境全体でバックアップをスケジュールし、連携させる高度なツールにますます投資するようになっています。この自動化により、最新のデータ復元可能性を維持するために不可欠である、一貫したバックアップ活動を維持できます。これらのプロセスを自動化することで、タイムリーで信頼性の高いデータスナップショットが確立され、企業は手作業の介入により発生することの多い人為的ミスを排除できます。

さらに、バックアップの整合性を検証し、バックアップストレージの状態を定期的に監視することが不可欠です。自動化ツールはこれらのタスクをうまく処理し、データ破損から保護し、災害が発生した際にバックアップを確実に実行できるようにします。これらのツールを使用すれば、異常を自動的に検知し、手動による監視を必要とせずに事前定義された復旧手順を開始できるため、エラーの処理の大変さが軽減します。この機能は復旧プロセスを大幅に加速し、システムを迅速にオンラインに復元させます。

また、これらのツールは、監査およびコンプライアンスに向けて調整された包括的なレポート機能を提供することで、管理のしやすさも向上します。バックアップ履歴、復旧時間のほか、規制遵守や内部基準に不可欠な主要指標であるポリシーフレームワークの順守を追跡します。

最終的に、SAP環境でのバックアップおよび復旧の自動化は、データ保護戦略を強化するだけでなく、復旧作業も最適化するため、最も困難な状況での事業継続性の維持につながります。

まとめると、堅牢なデータのバックアップと復元機能がどのようなSAPデプロイメントにおいても不可欠ということです。企業は自社のバックアップ要件を慎重に評価し、正しい方法を選択し、適切に策定されたプロセスを実施して、事業継続性を維持しつつ、この重要なデータ資産を保護する必要があります。

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